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「小田原城がある所です」
それを聞いた瞬間、政友の体が微かに跳ねる。
「やはり相模か・・・・して、小田原城はどの方角に?」
聞きなれた言葉を耳にし喜々とする政友とは対照的に、橋本は顔をしかめ続けている。
「小田原城へ行かれたことは?」
政友の喜々とした表情は少し抑えられ、空を見るように眼が揺れた。
「うむ。以前北条家臣の松田憲秀殿の元で仕えたことはあった。じゃがわしの才を試してみたくなってのう。新たな主君を探しておったところじゃ」
橋本は頭につっかえた棒を取るように、政友にさらに質問をする。
「最近何か変わったことは?」
その質問を受け、政友はなにか思い出したように頷き始めた。
「甲斐の武田家の下へ向かおうとしている最中に辺りに霧が立ちこめ、大地が揺れたと思ったら見知らぬ地へ来ておった。曲者の仕業かと思い甲冑を身に付けて警戒をしておったのだが・・・・」
政友が肩をすくめる。
その後疲れ果ててあの道で立ち尽くしていたのだろう。
「つまり異変が起きてからは小田原城へは行っていないということですか?」
「左様」
橋本の頭の中に浮かんでいた一つの考えが弾ける。
雨が既に止んでいる事に気づいたのもその時であった。
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