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「うむ」
橋本の要求は耳に入っているのか、先程から実のない返事しか返ってこない。
まずいことだとは思っていながらも、政友をここに残して就寝するという案も頭に浮かびつつあった頃、急に政友が口を開いた。
「わしは寝る」
橋本はこの急な発言に戸惑い、眠気を頭から放り投げてしまった。
「明日甲斐の武田家を訪ねる」
そう言って政友はベンチに寝転がった。
この時代に武田家はない。と橋本は言おうとしたが、小田原城の人影の噂と共に武田信玄公墓の人影の噂も思い出した。
そのことを政友には告げていないが、彼は同じ時代を生きた人間として何かを感じ取ったのだろう。
橋本は何も言わず、政友が座っていた椅子に腰掛けて目を閉じた。
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