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2010年10月12日午前1時。
辺りが完全に寝静まったのを、一人の男が確認した。
彼は周囲をぐるりと見渡すと、音のない歩き方で城の中へ戻っていく。
外から見れば「こちら」に来る前と変わらぬ壮厳な構えをしているこの城も、中に入れば珍妙な装飾が施され見る影もない。
男は天守閣へと続く階段には登らず、奥にある鉄製の扉を開けた。
掃除用具らしきものが散在している埃臭い部屋に、彼の主がいる。
「氏康様、辺りは寝静まったようです」
男が片膝をつき頭を下げる。
部屋の明かりを付けていないため周囲の様子は見えないが、主君の足音が近づいてくる空気は感じ取れる。
その暗闇のなかから、上品な威厳を纏った声が聞こえた。
この声の主こそが、男の主君、北条氏康である。
「苦労であった、秀信」
主からの労いの言葉に、男、大藤秀信は更に深く頭を下げる。
その声は男の肩を通り過ぎ、やがて後ろから聞こえるようになった。
「参るぞ」
その声に反応して秀信は立ち上がる。
主の背中から放たれる精気を受け、秀信は体を震い立たせた。
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