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この派出所へ来る時に存分に走っただろうに、初老の男は疲れすら見せてはいたが、速度を緩めることはなかった。
橋本は骨折したことに気づかず試合を続けたサッカー選手の話を思い出し、この男の用事が些細なことではないと感じた。
二人が駆ける足音は雨音に混じり消えるかと思えば、路面の水を荒だて雨よりも強く音を立てる。荒れる水面が静まる前に、次の水面を揺らす。
その間隔が短くなることはあったが、長くなることはない。
初老の男が立ち止まったのは、駐在所から10分ほど走った後だった。
車一台半程しか通れないこの道に、祭りの最中のような人だかりが出来ている。
それだけでも奇妙な光景なのに、橋本が人混みを掻き分けた先に見たものは、何の面白みもない道に人が群れていることを遥かに上回る程奇妙、いや、奇怪といったほうがふさわしいものだった。
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