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人の群れが円になって囲んでいるその中央に、男が立っている。
その男の姿は濃い雨のせいで良く見えないものの、男が纏っているそれが衣服ではないことだけはすぐに理解できた。
雨を弾く鈍い光沢は、陽光のない雨空の下でもその存在を主張している。
光沢に包まれた男は群衆の前へ出た橋本に気づき、ゆらりとこちらに顔を向けた。
顔の様子は良く見えないが、ひどくやつれていることは感じ取れる。
「・・・・・は・・・・・・」
男が声を発した。
その声は砂煙のようにかすれてはいるが、砂嵐のような苛立ちを潜めている。
「ここは・・・どこじゃ・・・・・」
今度は芯の通った声を低く鳴らす。
かすれてはいるが、はっきりと聞き取れた。
「ここは神奈川の小田原市ですが・・・」
橋本がその見覚えのある光沢に警戒しながらゆっくりと近づく。
「小田原・・・・・小田原・・・・・・・・」
男がうわ言のように言葉を繰り返すたび、足が立つべき地面を見失う。
やがて体が大きく揺れると、雨に埋もれたアスファルトに倒れた。
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