第四章 慧眼の虎

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山梨県甲府市の山中に、いつからあるのか誰もわからないほど古い廃屋がある。 その廃屋は、山奥と言う周囲の環境と合わさり登山者たちに不気味がられていた。 そこに胆の座った男が上がり込んできたのは、2010年8月のことである。 男はすぐにこの廃屋を気に入り、そのまま居座ってしまったのであった。 時は進み、2010年10月20日の昼過ぎのこと。 彼の下に一人の男が訪ねてきた。 「ここにいらしておったとは」 その男は、そよ風の漂う玄関先で一礼をした。 「誰に聞いた」 居間で座禅を組みながら、背中越しに男が岩のような声色で喋る。 その原因が、自分に対する警戒であると気づいた男が場を和らげようと笑みを混じえながら答える。 「穴山信君殿にござる」 それを聞いた男の肩が、空気が抜けたように垂れ下がる。 そして足を崩し、玄関の方へ体を向けた。
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