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「あ・・・・あの・・・・・」
橋本の声は周囲の群衆のざわめきに消えた。
「駐在さん・・・!どうするんですか・・・!?」
群衆のうちの一人がざわめきの中から声をかける。
橋本は倒れた男を見つめながら、息を吐いた。
「とりあえず駐在所まで運びます。皆さんは帰宅してください」
そう言いながら橋本が男の肩部を下からすくい上げるようにして持ち上げようとするが、男は数センチ程しか浮かない。
その時、男の身を包んでいる光沢が本物だということにようやく気づいた。
肩に手をかけたまま、橋本はしばらく動かない。
彼の頭の中では、ここ数ヶ月の記憶が蟻のように脳内を這っていた。
小田原城に姿を見せた甲冑姿の人影。この噂を聞いた頃に時間が遡る。
「まさか・・・・」
誰に聞かせる訳でもなく、橋本は呟いていた。
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