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男の目が開いたのは、午後7時頃であった。
じっと男の前で様子を窺うことに退屈し、休憩を入れていた橋本は意表をつかれ手にもったコップを床に落とす程動揺していた。
男は橋本の存在に気づくと、体を起こし周囲を眺めだした。
しかし、橋本に対する警戒の念は濁流のように橋本の周りを囲んでいる。
「気づきましたか?」
橋本が近づくと男は眼を咄嗟にそちらへ向ける。
警戒の濁流が深くなっていく。
「お主は・・・」
その言葉遣いに、橋本の動きが一瞬だけ止まったが、警戒の濁流が波となる危険を察し何事も無く振舞う。
「橋本です。あなたが道で倒れたのでここまで運んできました」
男の眼が橋本から外れる。
恐らく先程の事を思い出したのだろう。
「そうか、かたじけない」
男と一言交える度に、橋本の胸の鼓動は高鳴っていく。
まるで未知の存在と遭遇したかのような不安感と、童に還ったかのような好奇心が混じり合う。
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