悲劇はその後に来る たぶん緩やかに 選択の余地なく

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親友の珀は、彼女の凛と秘密のサマートリップ。 俺は、掃除のバイト。 「ハァ……何で、凛と?」 いや。 わかってる。 珀は悪くない。 何度、溜息つきゃ割り切れんだ? 真夏の太陽が俺の肌をじりじり噛む。 乾いた熱い風が吹き抜け、汗が流れる。 「仁!まだかーっ!」 「もう少しですっ!」 リーダー怖っ! 海を見下ろす高台の別荘。 この豪邸に、今日の夜、オーナー家族がやってくる。 シティの管理階級ってどんな奴らだ? 潮風に誘われて海に目をやる。 あの向こうに海賊ってほんとにいる? どっちも俺にとっちゃ別世界。 それは画面の中にある。 関係ない。 出会うこともない さっさと終わらせてリーダーにOKもらって金もらって……。 ふと左腕のバングルを見る。 凛の誕生日に、渡そうと思ってた。 勝手に、お揃いの。 で、言うつもりだった。 もう、全然、無理じゃん。 「……ハァ」 広い空を見上げる。 腹が立つほど、ど晴天。 でも、ここはいい。 シティの空は、摩天楼につっつかれて、可哀そうだ。 今の俺は、親友に好きだった女を(勝手に)譲って、バイトに精を出してる。 20歳の俺は? 30歳の俺は? どこで、何してる? その時 この空はこのまま? あの海はあのまま? 「仁?」 「ぅわっつ!」 いきなり背中から抱きつかれて、思わず跳ねた。 ミナだ。 挑発に乗ってキスよりちょい先まで。 こいつは焦ってる。 積極的過ぎて、逆に萎える。 俺は、やっぱ誰でもいいとは思えないんだ。 「夜、あたしんち来ない?親不在」 「行かねぇ」 「凛と珀だってぇオトナになっちゃうんだよぉ?もうすぐ17の、夏の冒険♪」 ミナの腕を外し、くるりと方向転換。 ミナを、完全にまるっと無視。 「仁ってばぁ!あたしの初めてあげるぅ!」 「いるか!ばか!んなこと叫ぶなぁ!」 駆け寄るミナを更に無視。 走って往復。 ミナから逃れる。 ミナに追われる。 ああ、もう! 「いいかげ……んがっ!」 立ち止まった瞬間、ごずっと鈍い衝撃が背中に。 足元に、石? え?どこから? すっげー殺気。 振り向く。 リーダーが怪物みたいな顔で睨んでる。 手には、投げるのに手頃な石。 「仁!減給っ!」 「誤解ですっ!」 「リーダー!チェックしてぇ♪」 ミナ、リーダーのもとへ。 二度と来るな!ばか! ふふふふ 衣擦れみたいな笑い声に、どきりと心臓が爆ぜた。 きょろきょろ見回す。 だだっ広い芝生。
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