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時折ちらちら顔を出して見ているのに、もじもじして目が合うと、またさっと陰に隠れる。
くすり。イーリスが笑う。
「ちょっといいかしら?」と言って、すっと俺の肩を抱き、頬に軽くその頬をあてる。「ありがとう」
流れるような優雅な動作でいやらしい感じが少しもない。
どきっとしても、それが挨拶でしかないと、わかる仕草。
鼻先に甘い香り。
大人の……。
「ね?ペルラ、マードレと同じようにしてごらんなさい?」
促されて、ペルラはおずおず俺に近づくと頬に、そのほっぺをぷにんとくっつけた。
「ありがと。おにいちゃま」
「どう致しまして?」
幼い生き物の愛らしさは共通。
思わず微笑んだ。
これがいつかミナみたいになりませんように。
イーリスを見る。
あり得ないか。
「お食事でもと思うのだけど、あいにく今日は何もないの。ぜひ、明日、またいらして?」
と言われて、のこのこやって来たんだけど、良かったのかな。
けど、家にいて珀や凛のこと考えたり、またミナが押し掛けてきたりってのも面倒だった。
どうせ夏休みだ。
変わった経験をしてもいいだろうなんて思いながら、一応、制服で来てみた。
ちゃんとした服って他に思いつかない。
にしても、暑い。
いかつい門番が俺を見る。
わかってるぞと言う顔で門を開けてくれた。
イーリスは俺の制服を見て、にこりと笑った。
「素敵ね。見違えたわ」
そんな言葉にもどきどきするのは、なんだろ?
おかしな感じだ。
昨日とうって変わって、ペルラは駆け寄ってくると、ぽすんと抱きつく。
ぱあっとした無邪気な笑顔で俺を見上げる。
「おにいちゃまぁ。ペルラのパードレになって?」
「へ…えっ?」
「主人が仕事の都合で来られなくなったの。ペルラは楽しみにしてたんだけど」
頷いて、しゃがみペルラの瞳を見る。
「寂しいね?」
「おにいちゃまがいるからいいもん!」
お兄ちゃまってくすぐったい。
「仁、って呼んでいいよ?」
「じん!」
「あ、でもいちお“君”ってつけて?」
「じんも、ペルラっていっていいから!きょかする!」
「え?あの?」
「じん!あそぼ!」
聞いちゃいないよ。
走り出しちゃって。
「ごめんなさいね」
困ったように肩をすくめ、申し訳なさそうに言うイーリス。
優雅な身のこなし。
完璧な微笑み。
こんな人に出会うなんて奇跡かも。
何かの運命?
もう少し、一緒にいられたら。
なんて思ってたら
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