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適当に拭いて服を着た時、ドアがノックされた。
「どうぞ?」
ちょっと勝手に気まずい。
白いドレスのイーリス。
悪戯がばれそうで、どきどき。
「夜、花火はいかが?」
OH!YES!
同じこと考えてた!
「はい!」
イーリスの指先が伸びてくる。
ばっくんと心臓が跳ね上がる。
その指が俺の頬を撫でる。
「濡れてる。ちゃんと拭きなさいね?」
甘い微笑みを残す、その後ろ姿を見つめてしまった。
燃える音。火薬の匂い。
夜気を、イーリスは紫色の炎で燃やす。
くるくる回して無邪気に笑っている。
ペルラは俺と一緒にオレンジ色の花火を持っている。
「花火ってこんなに楽しいものだったかしら?」
「次はどれにしますか?」
「青緑のがいいなぁ」
口調がペルラみたいに、幼げに聞こえた。
イーリスの持つ花火に火を点けた。
しゅうっと音を立てて青緑色の炎が噴き出す。
「……私の髪、本当はこんな色なの」
「え?」
「秘密よ?」
イーリスは、吹き出す青緑色の炎が消えるまで、じっと見つめていた。
何も言わずに。
「……綺麗」俺、知らずに呟いてたらしい。「ん?」と聞き返されて、焦る。
「いや、あの花火が」見とれてたとは言えない。「そうね」
イーリスはフローズンダイキリを口に運び、少し唇を尖らせてストローを咥える。
上目遣いに俺を見て、微笑む。
「消えるから綺麗なの」
ちくりと胸の深いところが痛んだ。
「じん!つぎのはなびー!」
さすが4歳まるきりKY発言になぜか救われ気分だ。
しゅーしゅーと打ち上げ花火からカラフルな炎が上がる。
いっぺんに7本だと、炎もすごいけど煙もすごい。
イーリスの視線を感じる。
ばちばちっと最後にあがった花火が一瞬あたりを明るく照らし、イーリスと目が合った。
炎がばちんと爆ぜて、すっと無音の闇に沈む。
「寝かせてくるわ」うとうとし始めたペルラをイーリスは抱き上げて言った。
「仁君、ありがとう。ペルラ、楽しそうだったわ」
「あの……イーリスは?」
イーリスはふふっと笑った。
「仁がいてくれて嬉しかった。あと少しだけど」
初めてイーリスは、“君”をつけずに呼んだ。
心臓がぎゅうっと掴まれたような気がした。
喉が渇く。
いや、イーリスはそんな特別な意味で言ってないってば。
イーリスが飲んでいたフローズンダイキリのグラスに手を伸ばす。
ストローに口をつけて、ひとくち。
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