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甘くて冷たくて、でも、顔が熱い。
もう、ひとくち。
彼女の唇に触れてるような気分で。
そっとストローで唇を撫でてみた。
やっぱり、俺。
おかしい……。
なんでこんな。
夜空を見上げる。
すごい数の星が
ああ、そっかぁ
視界を遮るものはないんだ。
テラスに寝転がる。
夢みたいだ。
どうしてここに、今、いるんだろう?
まるで、ここに住んでいるみたいに。
もしも、あの日、イーリスが早めに着いてなかったら?
もしも、旦那が一緒に来ていたら?
もしも、ペルラがプールに落ちなかったら?
まだ傷が痛むのか確かめるように、もう一つ、問う。
もしも、凛と付き合ってるのが俺だったら……。
目を閉じた。
イーリスの顔が見える。
なんで、あんな風に?
寝かせてくるわって、戻ってくるのかな。
待ってた方がいいのかな……。
「仁君?寝ちゃった?」
「う……?」
「やだ。全部、飲んじゃったの?」
ふわりと額に乗せられた冷たい手。
ひんやり。
「……気持ち、いい」
「ふふ。酔っちゃったのね?」
やめてよ。
そんな甘い声で。
優しく撫でている。
髪を梳き、耳元を、首筋を、寝かしつけるみたいに。
「……子供じゃないぞ。俺」
「そうね。大人でもないけど」
楽しそうな声。
「ほら。お部屋に戻りなさいな」
重たい体をゆっくり起こす。
ああ。
ふわふわしてる。
酔うって、こういうこと?
あれ?
え?
俺?
「イーリス?」
なんで?
俺の胸の上に頭のっけてるの?
起こした方がいい?
このまま寝たフリした方がいい?
ゆっくりと花開くスローモーション映像のように、その目が開く。
イーリスが笑った。
「……大丈夫?」
「え?あ?」
椅子に座り直しうーんと伸びをする。
白い肌が眩しくて目を細めた。
「悪酔いしたのかなって心配したわ。朝までまだ時間があるから寝たら?」
「あの、俺、なんか……しました?」
「覚えてない?」
「あ、いや、何を?」
「凛がなんとかって。親友の珀がどうしたって」
「あ……ああ」なんだ。
「失恋?」
「えーと……」
「仁君、いい男になるもの。素敵な人に会えるわ」
「あ、はぁ」
「永遠に続くとか、これが最後の人だとか、生きてる限りそんなこと、ないのよ?」
うふふと笑う。
なのに、ひやりとするほど寂しそだ。
「そう、なんですか?」
「羨ましいわ。まだ、知らない痛みがある、あなたが」
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