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誰もいない家に到着。
誰の顔も見たくない。
誰とも話したくない。
部屋へ。
ケータイを切る。
ばふんとベッドに倒れ込む。
だるい。
イーリスは
俺と、どうして?
いや、わかるだろ?
こんな簡単に帰された。
……遊び。
気まぐれな。
俺の気持ちは、どうでも良くて。
旦那がいなくて、寂しかった?
だから?
最後の人にしていい?
甘いこと言って、俺を煽った。
だけど、声が聞きたい。
あの声にあの肌に触れたい。
胸が、重い。
関係ない世界にいたのに。
交わってしまった。
急に走りたくなって家を出た。
海岸線を走る。
汗が噴き出て息が切れる。
肺が悲鳴を上げるまで、もっと。
喉が熱くなって血の匂いがするまで、心臓が破れるまで、もっともっと。
もう立ち止まってくれと、足が叫ぶ。
それでもスピードを上げる。
日が暮れるまで、何も考えなくていいように体に苦痛を与え続けた。
家に帰って、シャワーを浴びる。
強く体を洗う。
服を着て、ペットボトルから水をがぶ飲み。
あ、バングル……忘れてきた。
つーか……いらないか。
もともと凛とおソロにしたくて買った。
凛には珀がいる。
俺には……。
『ちゃんと愛せる人を……』胸が苦しい。イーリス……。
インタホンが鳴って、あり得ないのに、イーリスかもと勝手に思って、瞬時に落ち込む。
ばかじゃねーの?
ったく!
頭をがしがし拭きながらドアを開けると、ミナが立ってた。
真っ青な顔でいつもと違うテンションで、抱きついてきた。
なんで、泣いてるんだ?こいつ
「仁、何回も電話したのに!ニュース見た?あの別荘」
聞き終わる前に、部屋に駆け込みテレビをつける。
夏の浅い闇の中、燃え盛る、あの別荘。
ばらばらと音を立てて飛び回るヘリコプター。
何、この映像?
どうゆうこと?
キャスターの声が映像にかぶる。
「海賊に襲撃されたようです。亡くなったのはガレーネーさん52歳。その妻イーリスさん36歳と思われますが、遺体の損傷が激しく、現在データ照合中です。
なお一人娘のペルラちゃん4歳は行方不明です」
……嘘だろ?
『最後の人にして、いい?』
『ここは、危険な場所になるわ』
まさか……?
『あとは、失うだけ』
ぷつっと何かが切れた。
「仁!しっかりして!」
ミナの声が遠くに聞こえて、どこかでばちばちと花火が爆ぜた。
照らし出されたその顔が
すっと無音の闇に沈んだ。
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