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春、早朝。
新たな春を迎え、どこの国でも入学などでおおわらわの時期。
「母さん!行ってきます!」
「また行くの?気を付けなさいよ~。」
「ほいほ~い。」
少年ーーーー名を氷崎緋色(ヒザキヒイロ)と言う。
黒髪黒目、肌は浅黄。
ごく普通の日ノ国の少年である。
「緋色、父さんに挨拶してから行きなさい。」
「おっと危ない。忘れるとこだった。」
「もう、しっかりしなさい。」
「ごめんごめん。」
母親に叱責を受けながらもどこか飄々とした緋色は軽く流す。
「父さん、行ってきます。」
緋色は部屋の一角にある仏壇に手を合わせる。
仏壇に飾られている写真はどこか緋色に似た顔立ちの男が優しい笑みを浮かべていた。
「よっし!では母上、改めて行って参りまする~。」
「いいから行くならさっさと行く。」
「はは、了解ィ。」
緋色は玄関に置いてある紐の付いた細長い袋を手に取り、外へ向かう。
「じっちゃん!おはよう!」
「ふむ、来たか。おはよう緋色。」
緋色の家のすぐ隣。
そこには一人の老人が立っていた。
しかし老人ではあるが外観は全く年を感じさせない。
しっかりとした体付きは若い頃に鍛えたであろう事を物語る。
そして今なおあまり衰えてはいない。
唯一年を感じる部分は白い髪の毛、長く伸びた白い髭。
それらはこの老人の積み重ねた人生を感じさせるようだった。
「今日もよろしくお願いします!」
緋色はバッと頭を下げる。
「うむ。ではいつも通り素振りからじゃ。」
緋色はその言葉に頷くと細長い袋の紐を解く。
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