クビキリサマA

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 まだまだ夜の闇が深く、人の手が及ばぬ土地が数多く存在し、神々や妖怪、魑魅魍魎が当たり前のように認識と信仰を保っていた時代。そんな時代の村の一つに悠は居た。夢の中で誰かが喋るわけではないが、当たり前のように悠は夢の状況を理解している。夢の中での悠は小さな少女だ。最も悠の意思に反し少女は勝手に動くため、この場所から逃げることは出来ない。少女は両親と共に小さな家の中で、神へ救いを求める祈りを捧げていた。この村は先日、大きな水害に襲われたのだ。人々の努力も虚しく被害は甚大であり、村人たちはこれから起きるであろう飢餓への恐怖に打ちのめされ、それでも必死に生き残った食料を求めて泥を漁っていた。  家の外が急に騒がしくなり、荒々しく扉が破られた。 「お不動様がおいでになった!鬼子を懲らしめにおいでになった!この村を滅ぼそうとした鬼子をだ!」  夢の中であってもそれが見事なものであると悠は思った。それほどに雄々しく、力強い仏像だった。父親と男の言い合いから、その像が今回の洪水で流されてきたものだと理解でき、神の意思に従い悠を、つまりこの少女を処刑するらしい。  理不尽な状況に対し、人間が図る最も簡単な精神の防衛方法は責任の転嫁。要は人のせいにすることだ。そして哀れなこの一家が、村人の憎悪を一心に受けることになった。  村の広場に引き釣り出され、悠は一本の鎌を渡される。少女の手には大きすぎる、収穫用の鎌だ。この先を知る悠は心を空にし、何も考えないようにした。そうでもしなければやり過ごせないからだ。  鎌を持った悠は、縛り上げられた両親の前に立たされていた。そして何をさせられるのか理解した少女は、必死に抵抗をはじめる。  途端に世界が暗転した。いつもとは違う出来事に戸惑う悠の意識も、世界と同じように切断された。
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