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友人の安否を確認するための方法として、それはどうなのかと思いつつも、悠は警察が殺気立っていたという部分が気になった。単なるベッドタウンである、文字通り目立つもののない片田舎の須加野市で、警察が妄想少年を現実に叩き戻すような殺気を放つ事件。しかもそれが一般人の家で起きたとなれば、答えは出ているようなものだ。しかし悠の意識はそれを否定した。解っていても、その可能性を無自覚の内に無視する程、悠はこの事件を嫌っていた。
「親しい友達として、そこで諦めるのはどうなんだろうね」
「しょうがないだろ。本気で怖かったんだからさ。せっかく手がかりが掴めるかもしれなかったのに。金杉の奴が、『絶対に尻尾を掴んでやる』って張り切ってたんだ。あの事件のさ。そしたらあの様子だもんな」
「事件?」
「察しが悪いな。事件っつったら、連続怪死事件だろ。学生の家で、警察があれだけ本気になってたら、あれしかないだろ」
意識から締め出していたにも関わらず、強引に突きつけられた物に対し悠は怒気を抑えることができなかった。
「そんな事があるはずないじゃないですか!あんな意味不明な事件が、僕らの周りで起きるはずが!」
周囲を歩く人が怪訝そうに二人を伺うほど、悠の怒鳴り声は良く響いた。
「うんそうだよな。幾ら県内で起きてるからって、わざわざこんな所でね」
それ以上この話題は不味いと感じた直人は、急いで話を切った。
「ところで先週のマラソン大会だけど。やっぱり普段運動してないときついな」
数秒前までの怒りを忘れてしまったのか、悠は別の話題を持ち出した。何も含むことのない学生らしい話だ。
「須川さんが一位とったあれね。俺が言うのもなんだけれど、どうして彼女、俺等なんかと連むんだろうね。勿体無い」
他愛の無い世間話で時間を潰しているうちに、校舎が見え始めた。
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