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そんな奈津美との悠の付き合いは長く、小学二年の頃に彼女が須加野小学校へ転校してからというもの、五年生の終わりまでずっと二人で行動していた。その頃から彼女は怪談や幽霊等が大好きであり、オカルトに対し異常な程拒絶反応を見せる今の悠からすれば、何故周りから公認されるほどの仲だったのかが不思議に思える。
「なんなんだろうな」
校庭を俯瞰しながら呟くと、急に奈津美が校舎の方向へ顔を向けた。まるで悠を特定したかのように視線が留まり、かなりの距離があるにも関わらず、目と目が合ったように思えた。全身の毛穴から汗が吹き出す様に体温が急上昇し、心臓が激しく音を立て全力疾走した後のように脈打った。ありえないと自分に言い聞かせるが、火照りは収まりそうになく、逃げるように昇降口に駆け込んだ。
不信がられぬよう、ゆっくりと呼吸を整えながら教室へ向かう。幸い生徒たちの喧騒が上手く奈津美の残滓を消してくれたため、ドアを潜る頃には普段と変わらぬ落ち着きを取り戻していた。
細く深呼吸をしながら席に着くと、ゆっくりとクラスの様子を伺うと、どうやら金杉の件はまだ知られていないらしく、クラスの中はいつも通りの能天気さで溢れていた。
悠が何をしてホームルームまでの時間を潰そうかと考えていると、窓際の席から聞き覚えのある単語が聞こえてきた。
「いやー、流石西村君。本当に信頼できる腕ですね。というかどうやってこんなアングルから撮ったんですか?」
「正直きつかったね、あれは。知っての通り須川さんの運動能力は我々とは桁が違う。事前に位置だけ決めておいて、後は須川さんよりも先にそこでスタンバレるように全力疾走。その甲斐あってこの出来さ」
ファンクラブ会長を自称する西村が、会員と一緒に奈津美の盗撮写真を披露しあっているらしい。奈津美に対する盗撮行為は今に始まったことではなく、学校全体で問題になっている事案だ。何度か職員会議や全体集会でも取り上げられているが、当の本人が『常識の範囲内の写真ならば構わない』と公言しているため、最早黙認されている状態だ。
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