第2章

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 実に老人らしからぬ動きをしてくれた。横なぐり襲いかかってくる剣を、真下に潜ってかいくぐったのだ。素人がとっさの判断でできるわけがない。なんらかの訓練を受けてなければとうてい無理だ。女の尻だけを追っかけて年を重ねてるだけじゃないらしい。 「年の功を感じよ!!」  俺がリドルの動きに感嘆していると、腹部に手のひらが添えられていた。  リドルが力強く鼻息を鳴らした瞬間、俺の内蔵が悲鳴を上げた。手から発せられた衝撃が、腹筋を看破して内蔵まで届いたのだ。俺の呼吸はとまり、意識が真っ白になる。唇が閉じられず、糸を引く唾液が地面に落ちていく。 「かっ!!」 「まだまだ青いの~」  痛みの度合いを示すかのように、俺の体から汗が噴きだす。前屈み姿勢で動きが止まった。体の自由が利かない。  リドルはそんな俺に笑い皺をみせて、背中をさすった。  自分でやっておいて、なんだその態度は。  身のこなしもそうだが、性格もぶっとんでいる。いったいどんな人生を歩んできたんだか。 「触るな、さっさと、用件を、いえ」  意識して息づかいを整えられないので、片言気味だ。その間、額の汗だけでもぬぐったが、手のひらがべっとりと塗れた。 「いっとくが自業自得じゃぞ。善人に悪さをしようと思うとバチがあるもんじゃて。さて、用件じゃが、いやなに、ルノちゃんに話を聞いておってな。働き場所に困ってるんじゃないかと思って来てみたら、こんな結果に」 「余計な、おせっかい、ありがとう、そして、クソ喰らえ」  俺は剣を地面に突き刺して、深呼吸をする。リドルが本気だったかどうかはわからないが、意識がはっきりしてきた。ただ内蔵系統の損傷は、しばらく尾を引くだろう。 「ほほう、人間がこの世界でやっていくのもなかなか難儀するぞぅ。老人を助けると思ってな、お前さん腕も立つしうってつけじゃろ」 「簡単にぶちのめした人間にいう台詞かよ。だいたいこっちは、ルノのことを最優先するんだぞ」
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