23人が本棚に入れています
本棚に追加
/127ページ
実に老人らしからぬ動きをしてくれた。横なぐり襲いかかってくる剣を、真下に潜ってかいくぐったのだ。素人がとっさの判断でできるわけがない。なんらかの訓練を受けてなければとうてい無理だ。女の尻だけを追っかけて年を重ねてるだけじゃないらしい。
「年の功を感じよ!!」
俺がリドルの動きに感嘆していると、腹部に手のひらが添えられていた。
リドルが力強く鼻息を鳴らした瞬間、俺の内蔵が悲鳴を上げた。手から発せられた衝撃が、腹筋を看破して内蔵まで届いたのだ。俺の呼吸はとまり、意識が真っ白になる。唇が閉じられず、糸を引く唾液が地面に落ちていく。
「かっ!!」
「まだまだ青いの~」
痛みの度合いを示すかのように、俺の体から汗が噴きだす。前屈み姿勢で動きが止まった。体の自由が利かない。
リドルはそんな俺に笑い皺をみせて、背中をさすった。
自分でやっておいて、なんだその態度は。
身のこなしもそうだが、性格もぶっとんでいる。いったいどんな人生を歩んできたんだか。
「触るな、さっさと、用件を、いえ」
意識して息づかいを整えられないので、片言気味だ。その間、額の汗だけでもぬぐったが、手のひらがべっとりと塗れた。
「いっとくが自業自得じゃぞ。善人に悪さをしようと思うとバチがあるもんじゃて。さて、用件じゃが、いやなに、ルノちゃんに話を聞いておってな。働き場所に困ってるんじゃないかと思って来てみたら、こんな結果に」
「余計な、おせっかい、ありがとう、そして、クソ喰らえ」
俺は剣を地面に突き刺して、深呼吸をする。リドルが本気だったかどうかはわからないが、意識がはっきりしてきた。ただ内蔵系統の損傷は、しばらく尾を引くだろう。
「ほほう、人間がこの世界でやっていくのもなかなか難儀するぞぅ。老人を助けると思ってな、お前さん腕も立つしうってつけじゃろ」
「簡単にぶちのめした人間にいう台詞かよ。だいたいこっちは、ルノのことを最優先するんだぞ」
最初のコメントを投稿しよう!