第2章

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 力の抜けた腕を抱えて床の上をのたうち回る。その間に、鼻下を両手で押さえている眉毛のない男に向き直った。すでに戦意は喪失気味のようだったが、放っておくわけにはいかない。いつに限らず、取りこぼしでえらい目にあうのが相場だ。  短い息とともに俺は相手の腹に拳を叩きこんだ。眉毛のない男が、目ん玉を飛びださせそうな勢いで、顔を膨らませる。  後ろ髪をつかんで壁にこすりつけると、真っ赤なラインが浮かんだ。真っ白な無機質な壁とも合っていたが、いかんせん芸術性というより、残虐性が評価される代物だ。リドルから褒められることはないだろう。  俺は眉毛のない男を両手で持ち上げ、立てかけられた剣の辺りに、投げ飛ばした。いずれも真剣だ。眉毛のない男に血の筋がいくつもつくられ、あび叫喚が響き渡る。  のたうちまわるのが弱くなってきた輩には、力強く踵をおろしてやる。狙うは、のど仏。枯れ枝を踏むのと一緒だ。気味のいい音が返ってきて、動きが止まる。  さて、残りは1体。 「って、やっぱり逃げるか」  リーダーと目星をつけていたちょび髭が、出入り口に向かって走っていた。たいして強くないだろうと認識していたので、間違っていない判断だろうが、仲間を置いていくのはなかなか頂けない。5人とも十指者だ。もし仮に死亡していても甦るが、その地点は自らの核がある地点。つまり今だと、敵の俺に復活の挨拶をすることになる。殺してはいないからいいものの、もしそうだったら、その時俺はなんて挨拶してやればいいんだ?
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