第2章

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 いや、どうせ俺を一目見たら脱兎のごとく逃げだすか。  ……しかし、逃げるのは速いな。  俺がそう思っていると、出入り口付近で、ちょび髭が吹っ飛んだ。尋常ではない飛び方だ。飾ってあった鎧にぶち当たっても、まだ突き進もうとしている。 「ダメじゃん。仕掛けたんなら最後までやり抜きなよ」  剣と鎧に埋もれているちょび髭を見て、くすりと笑う長髪の女。一呼吸置いて、絹糸のような髪を振り払い、俺たちに向き直る。深紅の瞳が憂いを含んでいた。きわどいスリットのドレスを来ていて、なかなか動きやすそうな服装だが、色気よりも機動性が気になるのは、幅の大きい長剣を手にしているからか。 「あんた、あそこの連中と知り合い?」  視線を長髪の女の指先に落とした。十指者と同じ指輪。宝玉は翡翠で、鳥の文様が描かれていた。 「違いますよ。アルトさん。この人はこの辺りに構えている武器屋の庇護者で、狼巣豚のメンバーです」 「そこ私が語るべきところでしょ。あんた出しゃばるな」  長剣がヒューイの眼前に突きつけられ、顔面が蒼白となっている。これは俺の責任でもあるのか。  俺は差し込むようにして剣を割り込ませる。 「それで、ケジメをつけにきたってか。なにがしさん」  俺は鼻先で笑う。戦うというのなら戦うまでだ。いつでもどこでも。 「ミリアムよ。威勢がいいな。その自信を瓦解させるのは楽しそう。いたぶってなぶり殺してやろうかしら」 「できることとできないことがある。それを思い知らせてやるのも悪くないな」  ミリアムが舌で唇を舐めた。興奮させたようだが、俺も同じ感情を抱いている。着火したら即座に燃え広がる闘争心。破壊の合図は互いの剣と剣が切り離されたときか。 「面白い、だけど止めておく。あんたらはリーダーが始末したがっている。近々、楽しげな催しがあるよ。楽しみに待っていればいい」  ミリアムの脳内ではなにかの予想図ができていたかのようだ。毒気のある笑みを浮かべて、背中を見せる。 「次あうときは、お前は屍。私を見ることさえできない。せめて、夜は妄想でヨロシクしてろ」  どぎつい性格してやがる。あんな女好きになるやつなんか、裏社会系しかいないだろうな。 「はあ、ミリアムさん」  ヒューイが店から出ていったミリアムの残滓を見ているようだった。
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