モブの夢

１

港に戻った彼を迎えたのは、見知らぬ彼女のやわらかい笑顔だった。

「おかえり、主人公はどうだった？」

彼はその問いに答えようとして、不意に納得のいかないような顔をする。

「主人公について聞いてくるなんて。もしかして、君にも自我があるのかい？」

先程のように腰を下ろし、彼は彼女に視線を向ける。

「難しい質問だけど、少なくともあなたが考えているような、受け答えをするだけの人形じゃないわ。記憶も性格も、もちろん心もある」

あなたのように、目的を持てるほどの『自己』は持ち合わせてないようだけど、と彼女は付け加えた。やわらかい笑顔は絶やさぬままで。

「多分他の人達も同じはずよ。もしかしたら、あなたのような特別な存在がまだいるかもしれないけれど」