12/45
前へ
/75ページ
次へ
「きっとそれは、設定されていないからなんだ」 彼は己の推論を語る。どこかの誰か、いやこの際神様でいい。その神様が、彼らには何も与えなかったから、そもそも僕らの明確な情報が存在しないから、知らないのは当然なのだと。 「自己同一性(アイデンティティ)を持たない存在、それがモブ、それが僕ら」 だからどうしたというわけではない。これはただの確認だ。モブとしてここに存在する以上、それは当然でしかない。 「主人公は凄かったよ。僕らとは別物だ、アイデンティティの塊」 それは面白そうね、と彼女はまた微笑む。潮風が彼と彼女の間を通り抜けて、これといって特徴のない彼女の髪がふんわり浮いた。濃い潮の香りが鼻を突く。 「そういえば、どうしてあなたは主人公を見に行ったの?」
/75ページ

最初のコメントを投稿しよう!

49人が本棚に入れています
本棚に追加