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彼がもし名のある立場なら、幼少の頃から…の様な形式で始まる無難なエピソードを持っており、それに伴う武器、あるいは魔術などを修得していただろう。
あるいは『道を歩く剣士』などのモブならば、主要人物達には遠く及ばないものの雑兵程度のスキルは持っているだろう。それを磨いていけば、取りあえず一人旅程度は軽くこなせるだけの技が身に付いたかもしれない。
しかし彼は『釣りをする男』である。
技はない、武器もない、ついでに言えば金もない。正直言って、手詰まりである。
「どうしたものかな」
彼は小さくため息をついた。
「取りあえず、お金を稼がないといけないな」
先立つものは金である。旅をするにしても、武器を手に入れるにしても、やはり金銭は入り用になってくるはずだ。
「そう」
彼女の相槌に促されるように、彼は再び腰を上げる。
「いってくるよ」
「いってらっしゃい」
挨拶はそれだけで。港には、海が奏でる音だけが満ちるのみとなった。
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