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 人の住む領域と、魔者の棲む領域、表向きは不干渉を貫きつつも、それでいて各地では人魔同士の小さな争いが絶えない。それぐらいの危機感を持った、物語にするならばこれから先ひと悶着ありそうな、そんな世界。 そんな世界の傍ら、人の領域、南に位置する港町マージリハ。この町のとある十字路で、主人公となるべき青年の物語が今まさに始まらんとする一方で、「彼」は隣に座る少女と共に、潮風に揉まれながら海面に餌のついた糸をたらしている。 彼はいわゆるモブである。名前は当然無い。いや、名前どころか歳もない。家も決まってない。家族がいるかもわからない。服装はありきたりだし、髪型には華がない。決まっているのは性別くらいで、なぜ隣の彼女と二人、釣りをしてるかも解らない。 いや、そもそも彼女と『一緒』に釣りをしてるのかどうかさえ怪しい。なぜなら彼女もモブだから。背景となるエピソードなど存在してないのだから、彼と彼女に接点は無い。無いことになっているはずだ。とすると、初対面の男女がなぜか並んで腰を下ろし、意味も分からぬまま釣りをしている。 状況を現すならこれが一番妥当だろう。
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