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「さて…と。大丈夫だったか?」 主人公は騎士の走っていった方向から目を逸らし、後ろでうずくまる少女に手を差し伸べた。 淡い桃色の、柔らかな髪を少しだけ揺らし、少女はその端正な顔を主人公へと向けた。表情には少し警戒の色が見て取れる。無理もない、彼女の瞳は他の誰とも違う色で、彼女が纏う衣服はこの『界隈』では見慣れぬ物で。そして何より彼女の頭には、この町の、他の誰にもないものが存在する。鈍い光を放つ、左右で対の黒く短い角が。 つまり彼女は、本来ここにいない存在、いるべきでない異物なのだ。騎士の言葉を借りるならば『魔の者』である彼女にとっては、本来ここは完全なる敵地。だからこそ、そこで向けられた純粋な善意にも、警戒心を持つのは仕方のないことだった。 主人公が差し伸べた手に少女が躊躇していると、遠くで笛の音がなり、にわかに町中が慌ただしくなる。どうやら先程の騎士が増援を呼んだらしい。先程騎士が去った方角から、黒と白の鎧が群をなして押し寄せてくるのが見える。
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