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梅雨に入ってから星が降り止まない。
夜空に立ち込める星雲から、街中に光の尾を引いて色とりどりの星が降る。星の雫はアジサイの花びらや家々の屋根へ墜ちてカラフル。
降り注ぐ星の音は薄荷みたいに涼しい。
そんな季節のせいで、街は真夜でも目が潰れそうなほど眩く、幾千幾万もの鈴が常に耳元で転がり続けているかのように賑やかだ。これだけ眩しい上にうるさければ、当然、誰も眠れない。
それは"ゆめかげ公園"のアジサイに棲みついている私も例外ではなかった。
その日も私は背中に渦巻き状の殻を背負い、青い花が咲いているアジサイの平べったい葉っぱに座って、空から降る星を眺めていた。
辺りにはしっとりと湿った空気がひたひたに満ちていて、風が吹くたびに、まるで波に揺られている気分になる。
新月の夜空には、深海のように深々と果てしない闇が広がっている。しかし、光があちこちに降り注ぐため、地上は真昼のように明るい。
遠い夜空の下には白壁の家々が建ち並んでいる。眠れない人々がその窓辺に腰掛け、星の雨を忌々しげに眺めている様子も見えた。
私の家であるアジサイの花壇も星に濡れた白い石畳が取り囲んでいて眩しい。石畳の窪みには、水たまりのかわりに小さな銀河ができていて、光の波紋が踊っている。花壇の目の前、公園の中央に位置している噴水は、水のかわりに星明かりを噴き出していた。
幻想的な風景にどれだけ見とれていただろう。
ふいに、柔らかいクラシックギターの音が聴こえてきて、私は驚いた。
――さっきまで誰も居なかったのに。
角のように突き出た2本の目玉をくるくると困惑させながら、なんとかギターの音色が聴こえてくる方向へ視線を向ける。
するとそこには、噴水の縁へ腰掛けてギターを抱えているひとりの青年がいた。
不思議な人だ。
火傷しそうなほど冷たい星が降っているというのに、傘も差していない。みすぼらしい旅装束と無精ひげがみっともない。腕に抱えたクラシックギターだけが、変に綺麗な薄紅(ウスクレナイ)。
彼は、アジサイの影にいる私の存在に気づくことなく、ギターの弦を弾きながら歌いだした。
『愛しい夜のmare(海)
水鏡の君は麗しく
無限に溺れる甘い死苦
繰り返す夜の
繰り返すmare
永久に美しきrimare(押韻)』
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