ふたりのリマーレ

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   深く、丸みを帯びた、哀愁漂う低い声だった。カフェラテのように仄かに甘い声色が、私の心をどこか懐かしい場所へ連れて行く。  ギターの音色が、ときどきしゃくり上げるように切なく掠れるところが、なぜか印象的だった。 「いい歌ですね。」  私が話しかけると、彼はギターから顔を上げた。すぐに私と目が合う。  彼と私との距離は、馬車二台分ほど離れている。しかも、私は彼の親指ほどに小さい躯を、アジサイの花の影に隠している。それなのに、彼はあっという間に私を見つけてスマイル。  もしかしたら彼は、本当は最初から私の存在に気づいていたのかもしれない。  彼は苦みを含んだ笑みを浮かべたまま、相槌を打つようにギターの弦を撫でながら言った。 「ありがとう、カタツムリ君。  君が幻でも嬉しいよ。」  どこか投げやりで、悲しげな様子だった。 「幻?」  頸がない私は頭を傾げる。  幻、とはどういう意味なのだろう。問いかけようと口を開きかけたが、彼は私の発言を遮るように言葉を続けた。 「そうだ。  もしここで女の子に会ったら伝えてくれ。 『"金鏡の湖"には行くな』と。」  彼がそう言ったと同時に、星が降る勢いを強め始める。雫のひと粒ひと粒が大きくなり、凍てつくように冷たい音色が私の耳に鋭く突き刺さった。 「たぶんその子は、僕の大事な人だから。」  視界が光に埋めつくされていく。彼の声もかき消されていく。  私は星に埋もれてしまわないように、大きな声で叫んだ。 「待って下さい!  貴方、名前は!?」  彼は悲しげに微笑んで、ぽつりと呟く。 「僕は、ヲルト。」  その言葉を最後に、視界には光が満ちて、星の墜ちる音が私の耳をふさいだ。 …☆…★…☆…  目を覚ますと夜だった。  どうやら星を眺めている最中に、うたた寝をしてしまっていたようだ。  星は相変わらずシャラシャラと降り続いている。  これだけうるさいのに、よく眠れたものだ。  私は自分自身に呆れながら、青紫の花が咲いているアジサイの平べったい葉っぱに座り直し、また夜空から降り注ぐ星へ目を向けた。  すると、噴水の縁に、ぴょいと1匹のカエルが跳び乗るのが見えた。鮮やかな緑色のアマガエルだ。  カエルは私と目が合うと、ニタリと顔を歪め、 「やぁ。」 と、私に向かって挨拶した。  
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