ふたりのリマーレ

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   このカエルはこの公園の噴水に棲みついている。要するに、ご近所さんというわけだ。  私が挨拶を返すと、カエルは花壇の側までぴょんぴょんと跳んできて、いつものべったりとしたダミ声で話しかけてきた。 「夢を見ていたようだね。  いったい何の夢を見ていたんだい?」  正直な話、私はこのカエルが苦手だ。縦長の切れ目が入った眼は冷たく、一切の感情を映さない。じっとりとした陰鬱な声は、地の底から響いて来るようで恐ろしい。  しかし、実際カエルが私に何かしたということはない。容姿や声が気に入らないからといって邪険に扱うのは、いくらなんでも可哀想だ。私は先程まで観ていた夢の内容をかいつまんでカエルへ話した。 「"金鏡の湖"……。  そいつは確かにそう言ったのかい?」  カエルは神妙な面持ちで言った。 「貴方、何か知ってるの?」  私が尋ねると、カエルは冷や汗を拭うように、長い舌で自分の顔をねちっこく舐める。その様子がいかにも穢らわしかったので、私は質問するのではなかったと少し後悔した。 「あぁ、昔は魔女の手下だったからね……。」  カエルは自嘲するようにそう言うと、私が座っている葉っぱへぴょんと跳び乗って来た。ねっとりと湿った顔を急に近づけられ、私の背負っている殻に螺旋状の悪寒が走る。  そんな私の様子を気にかけることなく、カエルは周りに声が聞かれることをはばかるように小声で話し始めた。 「この公園を抜けて、森の中へ入って行くとね、大きな湖がある。  そこが、"金鏡の湖"さ。  新月の夜に"金鏡の湖"を覗くとね、一度会ったことのある奴の中で、一番会いたい奴の顔が水面に映るのさ。  ただし、湖を覗き込んでいるところを魔女に見つかると、"夢幻の牢獄"に閉じ込められちまう。」 「"夢幻の牢獄"?」  聞き慣れない言葉に興味を惹かれ、気づけばまた新たな問いを投げかけていた。 「恐ろしいところだよ。」  カエルはブルッと身を震わせる。 「あそこには時間が無い。  自分が未来へ向かっているのか、過去へ向かっているのか。  若返っているのか、年取っているのかさえ、まるでわからない。  そのうち自分自身さえ見失っちまうのさ。」  カエルのただでさえガラガラな声は、震えすぎてほとんど聞き取ることが困難になっていた。  更に運が悪いことに、空から降る星の勢いは強くなって来ている。  
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