ふたりのリマーレ

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   私の聴覚は甲高い星の音色に侵されつつあった。そんな中、懸命に何かを伝えようとするカエルへ、私はいつしか真剣に耳を傾けていた。 カエルは続ける。 「夢の中では、すべてが虚構だ。  真実はひとつも無い。」  星の勢いはますます激しさを増していく。眩い光と美しい騒音の中、私は目を凝らし、かじりつくようにいっそう耳をそばだてる。 「いや、魔女が言うには、ひとつだけ真実が隠れているらしい。  けれど、そんなもの、見つけられやしない。  あんな世界で、見つけられやしない。」  カエルは水掻きのついた手で顔を覆う。  それと同時に、私の眼も耳も光でいっぱいになってしまった。 …☆…★…☆…  目を覚ますと夜だった。  どうやら星を眺めている最中に、うたた寝をしてしまっていたようだ。  星は相変わらずシャラシャラと降り続いている。  これだけうるさいのに、よく眠れたものだ。  私は自分自身に呆れながら、紫の花が咲いているアジサイの平べったい葉っぱに座って、また夜空から降り注ぐ星を見物していた。  しばらくそうしていると、公園の入り口付近に満月が昇っているのが見えた。 ――おや? 今夜は新月なはずなのに。  私が驚いて目を飛び出させていると、ひらりと翻った満月の裏側から、ひとりの少女が姿を現した。  私が満月だと思っていたものは、実は彼女の傘だったのだ。  傘と同じ月色のドレスを身にまとった少女が、こちらへ向かって踊るような足取りで歩いてくる。少女は星の雫を弄ぶように、傘の柄を回してくるくる。  長いブロンドの髪は頭頂部でまとめて団子にしており、かんざしの銀の飾りが歩みに合わせて揺れている。目が醒めるようなセルリアンブルーの瞳と、整った細く凛々しい眉からは、大人びた涼やかな印象を受けた。  しかし、薔薇色に紅潮した頬に、うっとりと夢見るようなあどけない微笑は、紛れもなく十代前半の少女のもの。更に言えば、恋する乙女そのもの。  ほとんど直感的に、彼女があの夢の吟遊詩人が言っていた"女の子"に違いないと思った。 「お嬢さん、お嬢さん。」  私は思わず彼女に声をかけていた。 「まぁ、カタツムリさん。  こんばんは。」  彼女の声は思いのほか低く、優しく、クラシックギターの響きに似ていた。声が微かに掠れるところなんて、特にそっくりだ。  
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