ふたりのリマーレ

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   私はできる限り陽気に振る舞いながら語りかける。 「こんばんは。  貴嬢はずいぶんご機嫌ですね。  いったいどこへ行くんです?  当てもなく散策?  恋人を探索?」  彼女はにっこり幸せそうに笑って応える。 「愛しい人に逢おうと画策。  "金鏡の湖"へ行くのです。」  私は息を呑んで、更に質問を重ねる。 「知ってますか?  "金鏡の湖"を覗き込んでいるところを魔女に見つかれば、"夢幻の牢獄"に囚われるのです。  怖いでしょう?  恐ろしいでしょう?」 「穏やかな心証。  恐怖などありませんわ。  愛する人に逢えるのですもの。」  やはり、と私は思った。  彼女はきっとあの詩人に恋をしていて、"金鏡の湖"へ行ってあの詩人に会うつもりなのだ。  私はもうすっかり、そう決めつけてしまっていた。だから私はとっさに、こう言ってしまったのだ。 「"金鏡の湖"へ行っても、吟遊詩人はいませんよ。」  彼女は一瞬キョトンとして、それからおもしろそうに笑うと、 「貴方は彼をご存知なの?」 と言った。 ――あぁ、しまった。  自分が愚かな失敗をしたことに初めて気がついた。 「いいえ、いいえ、知りません。」  取り繕うように答えたが、後の祭り。彼女はますます笑みを深めて花壇の前にしゃがみこみ、私の顔を覗き込む。 「彼は"金鏡の湖"にいるのですか?」  彼女は私が詩人を知っていると確信していた。これでは私も観念せざるを得ない。 「……さぁ、知りません。  彼は『"金鏡の湖"へ行くな』としか言いませんでした。」  私がそう言うと、彼女はしばらく考え込み、驚くべき言葉を口にした。 「彼を知っているのなら、ついて来てはくださいませんか?」  まさか自分が誘われるとは思ってもみなかった。 「何故私が?」  問いかけると、彼女は私の顔を見て、まっすぐに答える。 「私は彼の顔を知らないのです。」  私はますます驚いた。 「貴嬢は、彼が好きなのではないのですか?」 「わたくしは嫌い。」  彼女は苦々しく顔を歪ませ、 「彼に恋をしていたのは、わたくしの双子の妹ですわ。」 と、付け足した。  彼女は何故自分が"金鏡の湖"へ行く決意をしたのか、語ってくれた。  彼女が言うには、ある晩から彼女の妹の夢に、吟遊詩人が現れるようになったらしい。毎晩夢で会ううちに、妹は吟遊詩人に淡い恋心を抱くようになった。  
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