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しかし、何の前ぶれもなく、吟遊詩人は妹の夢に現れなくなってしまった。妹は詩人に逢えないことを気に病んで"金鏡の湖"へ行ってしまう。その日以来、妹は行方不明になってしまった。
どれだけ手を尽くして捜しても、妹は見つからなかった。
彼女は『自分が妹を止めていれば』と罪悪感に苛まれるようになり、せめて妹の顔だけでも見たいと"金鏡の湖"へ行く決意をしたというわけだ。
「しかし、貴方が例の詩人を知っているならば、少し話が変わってきます。」
彼女は清々しく聡明な微笑を浮かべる。
「妹が行方不明になったのが"夢幻の牢獄"に囚われたからだとは限りません。
そもそも、一度も会ったことのない人間を夢に見るというのもおかしな話です。
こうは考えられませんか?
詩人は実在していて、妹は現実の彼に一目惚れをしていた。
そして、再会した妹と詩人は恋仲になり、そのまま駆け落ちした。
もしくは、妹は詩人を捜しに旅へ出た。
どちらにせよ、詩人を追って行けば、妹の居場所の手がかりが掴めるかもしれません!」
鼻息荒く語る彼女の目の輝きに気圧され、私は曖昧な相槌を打つ。彼女は更に続けた。
「貴方は"湖"へ、『あの詩人に会いたい』と念じてください。
わたくしは貴方の横から、"湖"に映った詩人の顔を覗き見ます。
そして、その顔を手がかりに詩人を追い、妹を捜し出します。」
「な、なるほど。」
思わず納得してしまったが、このままではいけない。私まで恐ろしい"金鏡の湖"へ行く羽目になってしまう。
私はしどろもどろに言い訳を始めた。
「た、確かに素晴らしい案です。
ですが"湖"に関する噂が本当であるとは限りません。
だって、会いたい人の顔が映る湖だなんて、まるで夢みたいな話じゃないですか。
きっと迷信。
そう、恐らく迷信!」
「……そう、貴方が"湖"を覗き込んでも、詩人の顔が映るかは不信。
しかし、わたくしは妹の顔だけは必ず映ると確信。
詩人の顔が映らなければ、妹の顔だけを見て諦めます。」
彼女は悲しげに眉尻を下げたが、それでも"湖"へ行くことは諦めないらしい。
「何故、妹さんの顔は必ず映ると断定?
妹さんの顔も"湖"に映るかどうかは不確定!」
「わたくしはその考えを否定。
彼女はわたくしの妹です。
妹の顔は絶対"湖"に映ります。」
根拠はまるでわからないが、彼女は自分の考えに自信を持っているらしかった。
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