ふたりのリマーレ

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  ――仕方がない。  私は最後の手段に打って出た。 「また今度にしませんか?  いくら新月の夜でなければならないと言っても、今日はあまりにも夜が深すぎます。」  なんとか今日は帰ってもらい、来月までに私はどこか遠くへ逃げるという作戦だ。  彼女には悪いが、女の子を危ないとわかっている"金鏡の湖"へひとりで行かせるわけにはいかないし、私自身も"湖"に行きたくはないのだ。  私の提案に、彼女は切なげに俯いた。 「いいえ。  わたくしは一刻も早く、"湖"へ行かなければならないのです。  もう、時間がないのです。」  か細い声でつぶやきながら、彼女は自分の細い喉をそっと撫でる。  伏せられた彼女の長い睫に、星屑が乗ってきらきらと輝いていた。憂いを帯びたその表情が、まだ人間として未完成な少女に不釣り合いなほど深遠な魅力を与えていた。  私は深々と溜め息をついた。 「……貴嬢、お名前は?」  私の問いかけに、彼女は一瞬戸惑うように視線を泳がせ、 「わたくしは……リマーレと申します。」 と、はにかんだ。  結局、私はリマーレの傘に乗って、一緒に"金鏡の湖"へ行くこととなった。  星に濡れると凍ってしまうので、私は傘の内側へと這っていく。美しい傘に、ぬめぬめとした私の足跡がついた。  傘の内側に逆さまに張り付いたまま、リマーレに声をかける。 「すいません。  傘を汚してしまって……。」  リマーレは端正に整った横顔を見せて微笑んでくれた。 「何も謝ることはございませんわ。  わたくしが来てくださるようにお願いしたのですから。」  リマーレはそう言ってくれたが、私は触れるものすべてを穢してしまう自分の穢らしさを呪った。私は美しいものに、何ひとつ触れることができないのだ。  私は今、斜め後ろからリマーレが見つめている。  微かに産毛を巻いている白い項からは、彼女の体温で生温くなった湿った空気と、とろけるように甘い香りが漂ってきている。  例えば、私があの白い頸筋をねっとりと這い、ぬめる粘液を残しながら鎖骨をなぞり、まだ膨らみの無い胸元へと滑り込めば、リマーレは可愛らしい微笑を崩して潔癖そうな細い眉を顰めることだろう。  そして、私は……―― 「着きましたわ。」  リマーレが足を止める。  私は自分の胸に湧き上がる得体の知れない醜い感情を、腹の底で噛み潰しながら顔を上げた。  
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