1,泣き方を忘れて

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「柳(ヤナギ)君、早くしなさい」 一階から聞こえる声は母のではない、叔母だ。 両親は祖母が亡くなった後に事故で、祖父は柳がこの世に生を授かる前には既に亡くなっていたと聞いていた。 ―――つまり、自分は親戚中をたらい回しにされているのだ。 「柳君、聞いてるの?」 「今行きます」 叔母の問いかけに短く答え手にしていたクマのぬいぐるみ――ジュリアをベッドに置く。可愛らしい黒のまん丸のつぶらな瞳に柔らかいジュリアは幼い頃父にねだって買ってもらった物。 ついでにと首に結んである赤のリボンを結び直し狭い部屋を出て急な階段を下りた。 「今日、テスト返されたんですって?」 つまり叔母は早く見せろと言いたいのだ。柳は急いで部屋へ戻りファイルに挟んであったテストを掴み叔母の元へ戻る。 「はい」 テストを差し出せば直ぐ様盗られ食い入るように見る叔母の姿は滑稽だ。 なんたって叔母は柳を貶す理由を探しているのだから。
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