自己(月)

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 《壺》   私の中には壺がある 大きく深く半透明の壺 重く頑丈だけど、上の方に小さな穴が1つ空いてる 完全に溜まる前に少し漏れる小さな穴が…   私はこの壺に溜め込む 自分の嫌な感情… どうしようもない吐露… 弱さや脆さや危うさ… 悲しみや辛さ…   今までそうやって溜め込んで来た 溢れ出す手前で少し漏れ、またその分の空きに溜め込む その繰り返しで、壺はいつまで経っても空にならない   そうやって自我を押し殺して生きて来た どうしようもない面を人に見せたくなくて… 曝け出すのが怖くて… その後避けられ傷付くのが嫌で…   最近、壺に罅が入った 半透明で外からでも中身が判る壺 その壺に気付いた人達が、何とか割ろうと罅を入れた 穴の部分から少しずつ割れていく壺…   私は怖くなった… それが優しさと判っていても、どんどん漏れる様に恐れを抱いてしまった… そして私は、懸命にかけらを拾い集めた 何とかまた元の形に戻そうと、がむしゃらに足掻いた   半狂乱になりながらかけらを集める私… かけらで手が傷付いても、そんな事どうでも良かった 壺が完全に割れてしまう前に何とかしなくては… そんな思いに駆られた私には手の傷なんて…   そんな時、あの人が私の血だらけの手をソッと優しく握った 『もういいんだよ』と心に直に囁かれた 温かく包まれた瞬間、ふと気が緩んでしまった私… かけらを拾うのをやめ、ついと伝う涙を拭う…   そしてあの人は、まだ半分程形を止めていた壺を手に取った 『大丈夫だから』と、また私の心に優しく囁き、ゆっくりと手を離した… まるで時が止まってしまったかのような感覚の後、私は思わず目をつぶり耳を塞いだ 遠い所で音がした もう溜め込まなくていいのだろうか… 軽くなった胸の中は、あの人に対する愛に満ちていく 正気を取り戻した私は急に手に痛みを感じた こんなになるまで己を傷付けて、私は一体何を…           あぁ、私の壺が割れた…
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