緋色の記憶

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私には人と違う景色が広がっている。 人が美しいと思うものが私には汚らわしく見える。 人が恐怖するものが私には神光しく見える。 私には烏やドブ鼠がとても色鮮やかに可愛らしく見える。 でも白い鳩は私の目には薄汚い物体にしか見えない。 医者に依ると私は精神的な色乱で、人と違う色を認識しているらしい。 白が黒、赤が青と言った具合に。 たしかに私には鳩が白いという記憶も烏が黒いという記憶もある。 色が混ざってしまったのは何時からなのか? 私の最後の記憶は水飛沫の中で優しく微笑む母の姿… 考えながら歩いていた私は何時の間にか横断歩道の真ん中にいた。 そして目前には車が… 緋い… 強烈な緋い風景が私の色を、そして幼き日の“緋色の記憶”を思い出させたのだ。 私の母は強盗に刺し殺されたのだ 最後まで私を庇いながら… 血塗れで私に微笑みかける母の姿は今まで見てきたどんな景色よりも美しかった… 血溜りの中、私はゆっくりと意識を失っていった… まるで母親に抱き締められて眠る子供のように…
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