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いつものように罵声を浴びせられ、
髪を引っつかまれた。
吐かれた唾が充血した眼に入る。涙は出ない。
悲鳴を上げる間もなく、殴られた。
近所の人らは誰も助けに来ない。
泥酔したこいつの怒号と罵声は聞こえてるはずなのに。
一度、夜中に助けを求め、外に飛び出したことがある。
暗がりの中、窓を懸命に叩いた。
あのときは今度こそ本当に殺されると思った。
渾身の力を振り絞り、窓を叩いて助けを呼んだ。
けど窓が開かれることはなかった。
その後追いかけてきた親父に、私は捕まり、半殺しにされた。
なんでだよ。
なんで助けてくれないんだよ。
人間の冷たさと自分の愚かさを知り、悔しくて涙も涸れた私は、いつしか自分自身の胸の内も急速に冷えていくのがわかった。枯渇の境地。ひび割れた大地。
なすがままにされる人形。
終わればすぐ静寂が来る。
ひたすらそれを待つだけ。
嵐が過ぎるのを。
これはただの嵐。
暴力を振るわれている間、私はオズの魔法使いのオズになったり、不思議の国のアリスになったりした。
現実逃避してればすぐ終わる。襲ってくる痛みもどこか他人事のように、そのうち鈍く感じるようになった。
私の眼は多分、死んだ魚のような眼だと思う。
それでも生きている。
それでも生きなければならない。
何の為に生きるのかはわからないけど。
私はこのゴミ溜めのような世界で、暮らすしかない。
大人になったら出ていくという選択肢もあるが、今はない。
それまで生きていられるかはわからない。
近頃は死にたいとすら思わなくなった。
あいつが死ぬまでは、私は殺される可能性から逃げられず。
いつか私があいつを殺すかもしれない。
生きるか死ぬか。
この世は地獄だと思っている。
たとえここを抜け出しても。
この世界が肥え溜めなことに変わりはないと思っている。
それでも私達はこの世界を生きなければならない。
血へどを吐きながら、糞を垂れ流しながら。
何故そうまでして生きるのか。
それがわからないまま。
私達はただ生かされている。
世界を変えようなんて思わない。
世界は変わるわけないと、私は知ってしまったから。
殴られてる間は。
私は神の魂が濁りのない透明であることを知ったり、
それらは傷つかないと得られないことを知った。
私は明日死ぬかも知れない。
でもそれを知ってからは怖くなくなった。
諦めと達観はよく似ている。
生き続けることと絶望はどこか似ている。
私は生きている
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