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数秒触れた椎名君は、ゆっくりと余韻を残して離れた。それから私の頬の濡れ跡を指で撫でてくれた。
「早路さん、好きです。付き合ってください」
三度目の告白は、拒絶出来なかった。
「ずるいよ、椎名君」
いきなりキスなんかされたら心が揺れてしまう。指折りで数えられるくらいしか経験がないんだ。それも、相手が本気のキスなんて初めてだし。
俯いたまま返事を返せない私の手を、椎名君が引いて歩き出した。さっきとは違う、でもたしかな温もり。この手を払えない時点で、答えは出てるのかもしれない。椎名君もたぶん気付いてる。それを言及しないあたり、思ったよりも大人なのかな。そして、私は自分で思っていたよりも子供だったみたい。
男性という一つの括りで椎名君を縛ってしまっていた。世の中には彼みたいな物好きだっているんだ。
普段は情けなく見える彼の背中が、不思議と大きく見える気がする。
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