11人が本棚に入れています
本棚に追加
「俺、女の人を好きになったの初めてなんです」
彼の腕から逃げられない。腕に力が入らない。これもきっとお酒のせいだ。だから、今は彼の台詞に耳を傾けるしかない。
「早路さんから見たら俺なんてガキみたいなもんかもしれません。でも、真剣なんです。本当に好きなんです。こういう時にどうしたらいいのかなんてわかりません。ただ、このまま行かせたら俺はずっと後悔すると思うんです。だから、行かないで下さい」
言い切ると、私を抱く力がいっそう強くなった。痛いくらいに、椎名君へと押し付けられる私。逃げたいのに、体に力が入らない。催眠でもかけられているように思考が麻痺する。離して、って言わなきゃいけないのに、言葉が出ない。口は開いているのに呼吸するのすら苦しい。
そのままどれくらい経ったのだろう。何分にも、何時間にも感じられるけど、たぶん実際は数秒だと思う。椎名君が腕の力を弱めた。
一人暮らしを始めた時のような開放感と、夜中に窓の軋む音を聞いた時のような不安感に支配されて顔を上げる。椎名君の顔が目の前にあった。
「もう一度、言います。俺と付き合って下さい」
「…………嫌、よ」
即答出来なかった。数日前は何も考えないでも自然と出てきたのに、今は無理やりに拒絶の意思を押し出した。
最初のコメントを投稿しよう!