あいつ、見参?

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 確か俺が吹奏楽部に入部すると言ったとき、友達という友達が全員引いていた気がする。  驚きを隠せずといったところか、「えっ」に濁点がついてしまいそうな勢いで音のような声を発したかと思えば、二言目には誰もが声を揃え「お前が?」であった。  入部するであろう部活と俺の見た目があまりにもそぐわない理由からなのかそうじゃないのか、その容姿で…。という言葉が口からポロリしている幼き友たちの姿と、俺の別に良いだろと言う必死な声とが、今でも強く頭に残っている。  俺は純粋に、あれがやってみたいんだ、何か悪いことでもあんのか!  なーんて自分の意志を押し通して吹奏楽部に入部した中学一年の春は、もう三年も前の話になる。  アツい校長から始まり、熱情的な教師に支えられる、まさに篤実(とくじつ)なこの成間(なりま)高等学校。毎年文化祭や体育祭といった、学生生活の一大イベントでは他校には劣らぬ勢いがある。  そんな、青春を謳歌するには最適なのであろうブレザー型の制服に着られてはや二週間。パリパリとしていた紺のそれは、だんだんと馴染んできたようであった。  そして、成間高校一年ピチピチの新入生、凪 岬(なぎみさき)と少々珍しい名前を両親からありがたーくいただいた俺は、音楽室を覗きこもうと開いているドアに顔を近づける最中。  言い方を変えるなら、開いているドアからひょっこり顔を出そうとしている最中。  素直に入れよ、とかいう突っ込みは受け付けない。  音楽室を覗く理由としては、残すところあと二日の仮入部に参加するため。  中学の頃、楽器を手にしたその瞬間から、自分は一生吹奏楽を続けようと心に決めていたのだ。  覗きこんだ音楽室では、指揮台に乗った先輩がスコア片手に、指示や改善点を指摘している姿があった。曲を演奏ではなく合奏という形でお披露目しているのだろう。  
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