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僕は先輩にかけるべき言葉が見つからなかった。絶句なんてモンじゃない、頭が真っ白だった。
『真冬姉は…全然笑わない子だった。……それこそ感情も体温も無い人形みたいにな……』
そうか……ヒデアキ君が言っていたのはこの事だったのか。
「でもね……私が六歳の時、地獄みたいな生活は一変した」
真冬先輩は言った。まだ涙声だったけど、穏やかな口調だった。
「その時日本にいた血族のトップ、つまり日本に住む血族が所持している『ゼウスの遺産』を管理していた人物が事故で亡くなったの。その後に就任した人が私の事を護ってくれた」
先輩は続ける。
「その人はね。地獄にいた私をヒーローみたいに救い出してくれた。血だらけで誰も近寄りたくない位汚れた私を『助けにくるのが遅くなってごめん』って、強く抱きしめてくれた。私の為に泣いてくれた。……その後も私を血族から護ってくれたし、その人はササメさんや桜香さんの師匠だったから、ササメさん達みたいに私に良くしてくれる人にも出会えた。本当に、凄く優しい人だった……」
真冬先輩は顔を上げて、星空を見上げた。涙で潤んだ瞳が星明かりに煌めいていた。
「でも」
真冬先輩は言った。
真冬先輩はやはり悲しそうに笑った。
僕は何かを言おうと思ったが、言葉にならなかった。
変わりに真冬先輩が口を開いた。
「今起きてるこの『天災』は、ヒトラーの血を継ぐ者、つまり私に最も近い親戚が中心となって同志を集め、三カ月前、世界各地の血族を一斉に殺したから起きた……ってササメさんにさっき教えてもらった……その同志に私を救い出してくれたあの人がいたことも」
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