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真冬先輩は不意に立ち上がった。
「もし『カルマ』が無ければ、私の運命も少しは変わってたのかも知れないね……そうすれば両親は今も生きていて、私は『カルマ』を守るために、学校に生き残っていた友達を見捨てなくてもすんだのに………あの人が『ゼウスの遺産』を奪い、血族を殺さなくてもすんだかも知れないのに」
僕はこの旅の目的をようやく理解した。
つまり、何らかの理由で減少した『カルマ』をこれ以上減少させるのを防ぐ為、自分の中にある『カルマ』を守るため、先輩は学校に避難した友達を天災の中に見捨てても『あの人』がいる血族に保護してもらおうとしたのだ。
しかし、現実は『あの人』が血族を殺し、『ゼウスの遺産』を奪っていた。
そうか……真冬先輩の悲しそうに笑った意味が分かった。
『カルマ』という存在が無ければ先輩は普通の女の子として暮らせたのだ。
両親が殺されることも無く、監禁され、蔑まれることも石を投げられることも、殴られ蹴飛ばされることもなく、友達を天災の中に見捨てて旅に出ることも、大切な人が人を殺すことも無くて、ホントに美人でかわいくて頭も良い先輩は、いずれスゲェイケメンなんかと恋に落ちて普通に結婚して子供産んで、普通の人よりずっとずっと幸せになって暮らすハズだったのに----そうなるハズだったのに……
「……ハルヒト君」
真冬先輩が僕の名を呼んだ。
「は……はい」
座っていた僕は立ち上がり、真冬先輩の横に並ぶ。
真冬先輩は再び口を開く。
「助けて……なんて言わないけど……」
真冬先輩は今にも泣き出しそうな目で、真っ直ぐ僕を見た。
「私のそばにいて」
僕は……真冬先輩の為に何ができるんだろう。
「はい」
僕は真冬先輩の小さな、握りしめたら壊れてしまいそうなほど華奢な手を優しく握った。
真冬先輩は何も言わなかった。
ただしっかりと僕の手を握り返してくれた。
僕には真冬先輩を助けることなんて出来ないかも知れない。でも
真冬先輩のそばに立って、先輩の手を握ってあげることくらいはできる。
僕は少しだけ握った手に力を込めた。
ふと空を見上げると、そこには変わらず満天の星空が広がっていた。
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