強襲と混乱と邂逅

2/12
9人が本棚に入れています
本棚に追加
/77ページ
時たま夏の朝は、下手すると「これは風邪をひくんじゃねーか?」と思うほどに気温が下がることがある。 外は快晴だったが、どうも、その時たまの日にあったったみたいで、僕がいる薄暗いビルの地下駐車場も例に漏れず、ひんやりとしていて涼しかった。いや寒かった。 『ーーーーこちら真冬です。システムチェック、ササメさん聞こえますか?』 僕の右耳に突き刺すように装着されたインカムから、真冬先輩の声が明瞭に聞こえた。 『クリアだ。良く聞こえるぞ』 僕の隣ーーーー昨日と同じ様に袈裟を羽織り、いかめしいオートバイに跨ったササメさんが答える。 もちろん背中には重厚感たっぷりの機関銃。 『了解です。桜花さん聞こえますか?』 『うん、大丈夫だよ。欲をいえばもう少しトーン上げてもらいたいかな?』 桜花さんはこれから殺し合いをするとは思えないほど、穏やかでほんわかした声で言った。 『了解です……このくらいですか?』 真冬先輩もまた、不安を感じさせない機械的な声色で答える。 『うん、大丈夫』 そんな真冬先輩の声を静かに聞きながら、僕は小さく嘆息する。 ゴツゴツして、決して乗り心地がいいとはいえない軍用サイドカーの側車の中で、僕は昨夜の記憶をーーーーこの世界の真実を、真冬先輩の涙を思い出す。 真冬先輩は言ったのだ。 『助けてくれなんて言わないけど……』 『そばにいて欲しい』と。 真冬先輩が望むなら、僕は死ぬまで真冬先輩のそばにいたっていいとも思う……でも それでいいのか? それで本当に真冬先輩は救われるのか? 先輩は助けて欲しかったんじゃないのか?救い出して欲しいんじゃないのか? 『カルマ』という運命から。 ……そこまでは分かっているんだ。でも…… じゃあ真冬先輩の為に何ができる?って自問した時、そばにいてあげることくらいしか思いつかない。 ササメさんは今から行われる殺し合いを真冬先輩の為であると言っていた。 確かに真冬先輩の為であるかも知れない。でも先輩はそんなの望んでなんかいない。 真冬先輩の恩人を、ササメさん達の恩師を殺すことなんて望んじゃないんだ。 だったら、僕はどうすればいいんだよ? 『………ハルヒト君?』 真冬先輩の声に意識が戻ってくる。
/77ページ

最初のコメントを投稿しよう!