強襲と混乱と邂逅

4/12
9人が本棚に入れています
本棚に追加
/77ページ
『真冬ちゃん、そろそろ時間かしら?』 苦笑をこらえながら、桜花さんが切り出した。 『……5時58分…そうですね。作戦開始二分前です』 真冬先輩が答える。僕は時間が狂っていないか腕時計をチェック。 チキ、チキ…と小さな音をたてる秒針の二倍以上のテンポで心臓が震えていた。 その鼓動が、数時間後には止まっているかも知れないと思うと、否応無しに、殺し合いが始まることを実感させられる。 『……桜花』 少し改まった面持ちで、不意に隣にいるササメさんが言った。 『んー?なにかしら?』 桜花さんはこれからドライブに行くかと思えるくらいに、相変わらずのマイペース。 『……死ぬなよ』 だが、とてつもなく真面目な口調でササメさんは言った。 それは『死』という抽象的な存在が、あまりにリアルに表現された言葉だった。 『…………うん、ササメ君もね』 桜花さんは静かに答えた。少しおどけたようにも聞こえたし、心底心配しているようにも聞こえた。 『ああ、それとヒデもな…』 『……兄貴も』 抑揚に乏しく、ボソリとヒデアキ君は答える。 その直後、重い炸裂音と乾いた銃撃音が遠くに聞こえた。 『……時間です』 真冬先輩が殺し合いを告げる銃声と爆発音に重ねるように言った。若干声が固かった。 僕は再び腕時計を見る。6時ジャストで、秒針が少し過ぎたところ。 『それじゃあ、行ってくるね』 桜花さんが言うと、ビルの地下駐車場にバイクのエンジン音が高々に鳴り響いた。 「おう」 ササメさんが答えると、夏の朝日が射し込む地下駐車場の出口を、桜花さんとヒデアキ君が乗ったもう一台のサイドカーが飛び出していった。
/77ページ

最初のコメントを投稿しよう!