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『真冬ちゃん、そろそろ時間かしら?』
苦笑をこらえながら、桜花さんが切り出した。
『……5時58分…そうですね。作戦開始二分前です』
真冬先輩が答える。僕は時間が狂っていないか腕時計をチェック。
チキ、チキ…と小さな音をたてる秒針の二倍以上のテンポで心臓が震えていた。
その鼓動が、数時間後には止まっているかも知れないと思うと、否応無しに、殺し合いが始まることを実感させられる。
『……桜花』
少し改まった面持ちで、不意に隣にいるササメさんが言った。
『んー?なにかしら?』
桜花さんはこれからドライブに行くかと思えるくらいに、相変わらずのマイペース。
『……死ぬなよ』
だが、とてつもなく真面目な口調でササメさんは言った。
それは『死』という抽象的な存在が、あまりにリアルに表現された言葉だった。
『…………うん、ササメ君もね』
桜花さんは静かに答えた。少しおどけたようにも聞こえたし、心底心配しているようにも聞こえた。
『ああ、それとヒデもな…』
『……兄貴も』
抑揚に乏しく、ボソリとヒデアキ君は答える。
その直後、重い炸裂音と乾いた銃撃音が遠くに聞こえた。
『……時間です』
真冬先輩が殺し合いを告げる銃声と爆発音に重ねるように言った。若干声が固かった。
僕は再び腕時計を見る。6時ジャストで、秒針が少し過ぎたところ。
『それじゃあ、行ってくるね』
桜花さんが言うと、ビルの地下駐車場にバイクのエンジン音が高々に鳴り響いた。
「おう」
ササメさんが答えると、夏の朝日が射し込む地下駐車場の出口を、桜花さんとヒデアキ君が乗ったもう一台のサイドカーが飛び出していった。
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