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それでも、僕の言わんとする事はササメさんに伝わったと思う。
ササメさんは短くなったタバコの灰をコンクリートの地面に落としてから、一言だけ、答えた。
「大丈夫だ」
訂正。僕の言わんとする事は伝わっていないようだ。
「大丈夫だ、っじゃないッスよ!根拠が無いッスよ!ちゃんと説明下さい!僕だって命懸かってるんですから」
僕が言うと、ササメさんは困ったように顔をしかめてから俯くと、紫煙混じりの嘆息を小さく吐いた。その表情には、どこか戸惑い色を孕んでいた。
僕はその表情を前に見たことがあった。それは昨日の午後、ササメさん達が隠してきた本当の世界を知る前の話。
血族の掟、門外不出の情報ーーーーー恐らく血族に関する事なのだろうと予想する。
「クソッタレ……仕方ねぇなよな……。ああ、そうだ仕方ねぇ。これは必要悪だ」
ササメさんは自分に言い聞かせるように呟くと、火のついたままのタバコを地面に放り、視線を上げ、僕を見た。
「桜花、ヒデ……対九十はヤバいって言ったな?」
ササメさんは僕に確認するように訊いた。
僕は大きく頷く。ちなみに僕はヤバいとは言っていないのだが。……訂正。言えなかっただけです。
「知っての通り、ヒデは狙撃手だ。正面切って敵とドンパチやることはまずない」
ササメさんの言葉に、僕は、ヒデアキ君がスコープを装備した、いかにも古めかしい、年季の入ったボルトアクションライフルを背負っていたことを思い出す。
つまり、それは後方支援に徹するということで、退路を断たれることも無く、いつでも撤退することができるということ。
でも、今日、桜花さんが持っていたのは短機関銃。サブマシンガンとも表現されるそれは、命中精度よりも火力を、短時間でどれだけ弾丸をばらまけるかを重視した造り。
つまり、敵に肉薄ーーーー敵のド真ん中に突っ込んでいかなくてはいかないということなのだ。
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