9人が本棚に入れています
本棚に追加
/77ページ
「俺ら血族には独自の武術があってな……そのなかに、脳の錯覚を利用した暗殺術、『無音闊歩』というのがある」
「むおん……かっぽ?」
「そうだ。火にかけたばかりの水はまだ冷たいのに、不意にその水が手にかかったら、熱くないのに熱いと反射的に誤認してしまう。それと同じ。敵の視覚、聴覚、嗅覚、触覚を逆手にとり、脳に誤認させることで、悟られずに命を絶つ技だ。つっても、あまりに難し過ぎて、習得できる奴は血族の中でもほとんどいないがな。…………俺もな」
ササメさんの言葉を聞いた僕は、驚きの色を隠せなかった。
いや、ササメさんが習得できなかったことではない(悔しそうだった)。
そんな技、少林寺拳法や太極拳など、三千年の歴史を誇る武術の大国、中国でさえも無いだろうし、それ以前に無理だろう。
流石は血族といったところなのか。真冬先輩の話なら、人間がこの地に生まれるよりも血族の歴史は古い。格が違う。
「でだな……桜花は普段はあんなんだが、『無音闊歩』を習得してやがる。しかも、世界各地にいる血族の中でも指折りの名手だ」
ササメさんは憎たらしそうに(または悔しそうに)笑い、言った。
「……そう、ですか。確かにそれなら勝算がありそうッスね」
よかった、と胸をなで下ろしながら、僕は安堵の表情を浮かべ頷く。
それ(僕だ)を見たササメさんは小さく笑うと、唐突に言った。
最初のコメントを投稿しよう!