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「いいや、ササメ君達の情報は漏れて無いよ」
ハルカゼ叔父さんは微動だにせず、即座に否定する。
「じゃあっーーーーーーーーーー」
ササメさんのその言葉が、最後まで紡がれることは無かった。
遮ったのは、夏の蒼空に響く、聞き覚えのあるスネアドラムの一撃。
突き刺さる鈍い音。サイドカーを揺らす、わずかな衝撃。
アスファルトを跳ねる、軽快な金属音のロール。
僕には何が起きたのか、全く、認識出来なかった。
世界中の時が止まってしまったかのような錯覚の中で、僕の視界の端に、左胸を押さえるササメさんと、太陽光を痛いくらいに反射した白い煙を曳く、銀色の自動拳銃を持ったハルカゼ叔父さんを捉えた。
撃った?叔父さんが、ササメさんを?
「なぁ……ハルカゼ師匠」
ササメさんが左胸を押さえながら、言った。
「なんで、こんな、みんなを、血族のみんなを、殺したんだよっ!!血族の問題児だった俺の話をちゃんと聴いてくれたのはあんただろっ!!真冬を闇から救い出してくれたのはあんただろっ!!俺は、あんたはこの世で一番素晴らしい男だと信じていたのに……何故だっ!!何で、こんなことしたんだよ……師匠」
叫ぶササメさんの目には、涙が浮かんでいた。
ハルカゼ叔父さんは銀色の自動拳銃の銃口を下ろすと、哀しげな瞳でササメさんを見据えた。
「約束なんだ……。まだ果たされていない約束があるんだ。その為なら、この世界を創った神様だって殺してやるさ。約束の為なら誰だっていくらでも殺してやるさ」
ハルカゼ叔父さんはそれだけいうと、再び銃口を僕達に向けた。
「分かったよ……あんたはもう、俺が知っているハルカゼ師匠じゃない……ただの裏切り者だ」
ササメさんはサイドカーから降りると、袈裟を脱ぎ捨てた。落ちると共に盛大な音を立てる防弾服だったようだ。
「秋山……側車の椅子の横にあるもん、取ってくれ」
ササメさんはハルカゼ叔父さんを見据えたまま、僕に言った。
「は、はいっ」
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