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と、トントン、と控えめに、部屋の扉がノックされた。
その音を聞き、女性はわずかに身じろぎをした。
さらにトントントントンと、先ほどよりも長くノックが繰り返された。
女性は座ったまま、微かに頷いた。
トントントントントントントン。
しばらくの沈黙ののち、扉からはまたもノックの音が響いた。
部屋の主は不快げに顔を歪め、もう一度だけ頷いた。
再度ノックの音――
瞬間、主の顔が怒気に染まる。
彼女は傍らに置かれた置き時計 (文字盤に数十個のダイヤモンドが埋め込まれた代物)を掴み、前方に見える扉めがけて投げつけた。
「うっせぇんだよ、一度ノックすれば聞こえるんだよ、さっさと入れって言ってるのが分からねぇのかよ!」
乱暴な口調で怒鳴る女性。
ちなみに投げつけた時計は粉々に砕けて絨毯の上に残骸をさらしていた。
もったいない、というより、座ったまま投げただけでそこまで粉砕するほどの衝撃があるとは、恐ろしい腕力であった。
それはさておき、その怒声が聞こえたからだろうか、控えめに扉が開き、その隙間から中の様子を伺うように小さな顔が現れた。
それを見て、女性は呆れた声を漏らす。
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