プロローグ 迫り狂る敵

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主はイスに座ったまま、手に持ったシャンパングラスを頭上に掲げた。 そのまま、自分の足もとに叩きつける―― 小さな硬い音とともに、グラスはあっさりと、粉々に砕け散った。 中に残っていたシャンパンが、たちまち絨毯に染み付いていく。 その様子を瞬き一つせず、淡々と主はつぶやいた。 「あたしとしたことが、うっかりグラスを落としてしまったわ」 「本当です、うっかりさんですぅ」 ジロリ、と主に睨まれ、少女は小首をかしげた。 「あれ? 怖い顔して、どうしたですか?」 「なにぼさっとしてるのよ! 早くグラスを片付けなさいよ! 早くしないと危ないでしょ!」 「了解です、すぐにやるです!」 少女は慌てて主の足もとへと駆け寄ると、絨毯の毛足に紛れたガラス片を拾い始めた。 「気をつけなさい。ガラスの破片で手を切るんじゃないわよ」 「はい、優しい心遣いありがとうですぅ」 「えぇ、もちろんよ、あたしはとっても、とっても、とぉぉぉぉぉっても優しいもの」 微笑みながら主はその長い脚を組み替え―― そのまま少女の手のひらを思いっきり踏み付けた。
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