色即是空

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「シチズンは、人身事故の現場で、何を学びましたか」 私の厭味は空回り、 また自分の話題に戻ってしまった。 「……現場検証の様子です」 「いいえ、そこで何を思ったか、何を考えたかは、立派な学びです。」 「考えたこと…」 私はしばらく考えた。 「駅でバイトしているので仲間内でも人身事故について話題に登ることが多くて。高校の時も部活中人身事故の話題があって。実際どんなものだろうと思ってました。バラバラになった遺体を黒いポリ袋に入れて運ぶ駅員さんの…姿を想像していました。 でも実際そんなものでも無くて、血の跡すらない。案外人も多くて、そこで人が死んだなんて気がしなかった。 でも、電車が動いた瞬間急変して、目の前をゴムの袋に入れられた遺体が通った。人の形にゴム袋が伸びて、きっと男性。割と体格もいいと思った。 数人掛かりで持って、階段を降りて行った。 自分の前を通り過ぎる寸前から、味わったこともない感じになった。 身がすくむ…。恐怖なのか後悔なのか。 ああ、興味本位で来ていい場所じゃなかった。 そう思ったの。」 私はベッドに腰掛けた。 「ここで人の一生というものが終わったんだ。母から生まれて、名付けられて。成長するにつれ対外的な事象に影響を受けて、全くのオリジナルとしてその人となりが固まっていく。たかぶったり沈んだり。その終わりがこの駅で終わった。それってすごい。良い悪いを別として、私はその場面に立ち会った。関わりを持った。死の直後に現場に居合わせた人間として。これが学びなの?」 「あなたは経験をして、考えを深めていった。 一人では叶わない、大きな学びです」 「へぇ…」 なんだか教祖か哲学者のようだと思いながら感慨もなく答えた。 でも、係わり合いながらか。 同じ車両にいるのも出会いか。 そう考えると少し 気持ちが良くなった。
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