始まらないエピローグ

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私は一人だった。 この閉鎖した空間の中では私は一人。 窓から見える景色は 笑顔でサッカーをする 私と同年代くらいの子供たち。 羨ましいな。 私もあの中に加わりたい。 桜の木はまだ、散らなさそうだ。 私は長い髪を2つに束ね。 外の世界の扉を開けた。 少し肌寒いけど、大丈夫。 私は思いきって、子供たちに声をかけた。 「仲間に入れて」 言えた。 「…………」 子供たちは依然として サッカーで遊んでいる。 私の声が小さかったの かな? 「ねぇ、なか……」 「向こうで遊ぼうぜ!」 子供たちはボールを拾い 丘を下っていった。 「あっ、……」 空はもう、茜色に染まっていた。 ――――――――――― 死んだ人間は生き返らないと 僕はこの十七年間 の人生経験で学んできたのだが、面白い事に 常識なんて奇怪な出来事 一つで壊れるものだ。 よく、思い知ったよ。 僕の、普遍的な人生に 彩り? を与えてくれた。ありがとう。 そして、今、僕は あの頃を今でも懐かしむ。 いい思い出、とは言えないが……。 えっ?いい思い出だった ろ、って? ん~、そうかな……………え?あー、はいはい。 良かったよ。楽しかった。でも、一つだけ加えて言っていいかい? いい思い出であり、 痛い思い出だったよ。 そう、僕は、あの日、死んだはずの人間に会ったんだ。 まるで突き刺さるような 冷たい夜。 夜食にハーゲンダッツを 買いに行くために出ていった僕は、帰り道に 町の中心に位置する大きな木がある丘に来ていた。木の種類は解らない。なんせここ三十年間一度も咲いてない。 木の下で、アイスを食べようとした時。 寒気を感じた。 肉体的でなく、精神的な 寒気。 それは、恐怖とも似た感情。 「一緒に遊ぼ」 少女の声。 振り向くとそこに…… 少女がいた。 少女は柔らかな微笑みを 浮かべ、すたすたと 僕との距離を狭める。 「お、お前は……」 「久しぶり、遊くん」 少女は僕の名前を呼ぶ。 僕は、少女の名を知っている。 いつの間にか恐怖は失せていた。 ちょうど十年前の今日 ここでいなくなった。 僕の唯一の友達。 幼い頃の孤独な僕を 救ってくれた大切な人。 忘れもしない。長い銀髪を可愛らしいチェリーの髪止めで2つにくくり、大きな蒼い瞳をいつも輝かせている。 視るもの全てを許してしまう眼差し。 如月文佳だった ――十年の時を経て 再び刻み始める二人の時 これは理不尽な おとぎ話。
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